AWHB 03-049
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文:どんぐり教育研究会
マンガ:おちゃづけ

どんぐり・スマイル <7>
「家庭で育てたい 子供の知的体力 その1」


スポーツを例にとってみても、学校でサッカーをする、鉄棒をするなど何らかの取り組みをしようとしても、子供たちがそれまで、自然の中を走り回ったり、ということがなければ、簡単にはできるようにならない。身体そのものができていないからだ。基礎的な体力が育っていなければ、より高度な運動を必要とするスポーツには取り組めない。同じことが、知的な世界についてもいえるのではないだろうか。
    東京大学名誉教授・汐見稔幸先生の言葉より



先日、ある教育雑誌で、「ゆとり教育終了間近 これから算数を理解できない子が、激増します」という、ショッキングなタイトルの特集記事を見つけました。

2011年4月より、文部科学省が定めた新学習指導要領が全面実施され、「学力低下」の一因ともされた「ゆとり教育」が終わります。

最も大きな変化は、指導内容の増加です。
「算数と理科」の学力回復に重点がおかれ、算数では平成元年に3割減らしたのを元に戻す、という改訂が行われました。また、小学校高学年では、中学の学習内容が前倒しされるなど、授業時間は約16%も増加します。

このような授業時数の増加に対しては、算数は「やったらやっただけの結果が表れる教科」ということで、「学力の底上げ」効果が期待されています。

しかし
一方では、現時点でさえ、小学生の学力なかでも算数の力は、既に崩壊の危機に直面しており、新学習指導要領の実施によって、さらにその傾向が強まるのではないか、と心配する声も、現場の先生たちを中心に多数あがっています。

「子供たちの学力、なかでも算数の力が、既に崩壊の危機にある」とは、子育て中の親御さんにとっては、非常に気になる問題だと思います。

一体小学校の現場で、何がおきているのでしょうか。

特集記事の中では、小学4年生を担当するあるベテランの先生の、こんなコメントが紹介されています。

「前の時間の授業で教えた内容が、児童の頭の中からほとんど消えている。復習をしてから授業に入るようにしているのですが、前回学習した内容が見事に忘れられているのは、驚くよりほかないですね」

実は、小学校で習う学習内容は、小学3・4年生から急に難しくなり、この頃から「勉強が分からない」「算数や理科が苦手」というお子さんが増えます。

たとえば算数では、3・4年生になると教科書の記述もぐっと難しくなり、「万の単位・1億までの数、2桁や3桁のかけ算、あまりのある割り算、億・兆の単位、およその数(概数)、四捨五入、長さの単位、面積の単位」など、子供にとって難しい内容がどんどん登場します。
     

私は毎日、幼児から小学生の子供をもつ親御さんから、メールや電話でのご質問やご相談をお受けしています。その中で以前、あるお母さまから、こんなご相談をいただいたことがありました。

「うちの子は小学3年生なのに、もう算数が分からないと言います。何度教えても、すぐ忘れます。私たちが子供の頃は、このくらいの算数は、普通に理解できたような気がするのですが・・・・・。何故なんでしょう?」

同じような内容のご相談が、最近とても多いのです。
これまでに頂いたご相談をふりかえってみると、

「小学生の算数ぐらい、そう難しくないはずなのに、何故うちの子はこんなに○○が出来ないのだろう・・・」と悩まれている親御さんが、日本全国にたくさんおられるように感じます。

(○○の中には、たとえば「リットルとデシリットルなどの単位換算、時間と時刻の計算、あまりのある割り算、千を超える大きな数」など、具体的にお子さんが悩まれている学習項目が入ります。)

ここで、子供に勉強を教える大人が、必ず意識しなければならないことがあります。
それは、「今子育てをしている親御さんが育った時代は、今ほど生活が便利ではなく、生活の中で算数の学習をする機会がたくさんあった。だから、小学校で習う算数もそう難しくは感じなかった」ということです。

たとえば、「毎日小銭をもって、お豆腐やお菓子をお店に買いに行く」「兄妹で毎日、ジュースやカステラを等分に分けるため、頭を回転させる」という生活体験が、今の子供たちには圧倒的に不足しています。

またほんの数十年前までは、遊び道具(竹とんぼ、ゴムのパチンコ、草花の首飾りなど)は基本的に、子供が友達と遊びながら、自分で手作りしていたはずです。

実は、このように遊び道具を手で作る過程では、長さや重さをはかったり、定規をあてて線をひいたり、素材をはさみで等分に切ったりする中で、自然に「算数の基礎となる考え方」が養われていたのです。

さらには、「考える力、工夫する力」「何でもあきらめず、集中して取り組む力」といった「知的体力」も、そこで鍛えられていました。

駄菓子屋の前にも、10円玉を2、3枚握りしめ、じっと考えているお子さんの1人や2人必ずいました。


「今、5円のくじなら4回引けるけど、今日は我慢して、あと2日お小遣いを貯めると、あのカッコいい40円の紙飛行機が買えるよね。あ〜20円足りない。困った、どっちにしよう…そんなお子さんたちは「意識しなくとも、毎日、算数の問題の中にいた」のです。


しかし、かつて子供たちが通った駄菓子屋さんは姿を消し、遊びは手作りではなく、既製品のゲームになりました。このような生活環境の中では、子供たちが自分で考えてお金を払う機会や、何かを手作りする機会は、大変少なくなっています。

私は、子供を取り巻く環境が変化し、
生活の中で子供たちが、「知的体力を鍛える場が減っている」ことが、現在の「学力低下」や「算数が分からない子供が急増している」要因の一つではないか、とそう考えています。

もちろん、学校の授業でも、初めて「単位」や「分数」を習う子供たちの理解をすすめるために、子供たちの身近にあるものを利用して、導入部分で体験的な取り組みをするという工夫はなされています。

しかし、学校の授業では、単位の問題でたとえば教科書の図で、「1リットルは10デシリットル」とコップを使って説明してあったとしても、多くのお子さんにとっては「何のことか分からない」というのが、正直なところではないでしょうか。

最近のお子さんが苦手な、大きな数も同じです。

ある教科書(4年生)では、いきなり次のような問題が出てきます。「数字を13こならべて13けたの数をつくり、その数を読んでみましょう」

数字を13こならべて、13けたの数をつくる?
一体全体、何のために?それって、どういう意味なの?

必要性も興味も感じていない状態で、いきなり「大きな数を作って、読みなさい」と言われた子供の頭の中が、こんな疑問で一杯になってしまったとしても、決して不思議ではないでしょう。

     

では、どうすれば良いのでしょうか。

実は、学校で習う勉強というのは、もともと生活の中での体験を通して、子供が何となく分かっていることを、「知的に整理し、学年ごとに系統だてて体系的に学ぶ」という意味合いが強いものなのです。

多くの親御さんは、「学校は勉強を教えてくれるところ」とそう思われていますが、実際は「勉強すべき内容を、教えてくれるところ」という位置付けのほうが、本当は正しいのかもしれません。

このように考えると、
「学校で習う学習内容を、自分でぐんぐん吸収できる子供」に育てるには、親御さんが生活の中で、子供の知的好奇心や興味を引き出し、知的体力を鍛えるような環境をつくってあげることが、大変重要になってきます。

たとえば、「大きな数」については、「学校以外の生活の中で、大きな数のイメージをたくさん持ち、具体的に考えてみた経験がどれだけあるか」がポイントです。

具体的には、親子でいつもの道をお散歩の途中で、「道路工事 総事業費○○千万円」とかいてある看板を見つけたら、「これはどういう意味なのかな」と子供に説明してもらいましょう。

また住宅展示場などに出かけ、「この家とあの家、いくら違うのかな」「何年ローンをくめば、買えるのかな」と具体的に考えてみる、と言う方法もあります。

「万、十万、百万、千万、一億、十億、百億・・・」と、子供にとなえさせるよりも、「十万円で買えるのは全自動洗濯機」「百万円で買えるのは、車」「一千万で買えるのは、家」など、子供がイメージできる身近なものと結びつけて、具体的に考え、興味をもたせてあげることを、おすすめします。

(次回に続く)
        2011/03/04掲載

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