AWHB 03-049
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 【新聞報道に見る09年度小学校教科書検定】
  2010年3月31日 毎日新聞・朝刊より一部抜粋

 教科書検定の結果が3月30日公表され、11年度から小学校で使用される教科書の中身か明らかになった。「脱ゆとり」に路線転換した新学習指導要領に沿って、各学年で「初登場」あるいは復活する内容も多い。一方、知識の詰め込みに偏らないよう、ノートの取り方や頭の働かせ方などを教え、思考力や活用カを養おうと各教科書会社が趣向を凝らしているのも特徴だ。

《小学校の教科書に登場した主な事項》

◇算数
5年生 素数台形の面積の求め方ひし形の面積の求め方
6年生 反比例文字を用いた式

◇理科
3年生 風やゴムの働き
4年生 骨と筋肉の働き
6年生 電気の利用食物連鎖

◇国語
1~2年生 神話、伝承
3~4年生 短歌俳句
5~6年生 古文漢文/編集の仕方や記事の書き方に注意し新聞を読む

◇社会
3~4年生 47都道府県の名称と位置
5年生 情報化した社会の様子と国民生活のかかわり
6年生 縄文時代


《ページ数を堰やした教科書の例》
   
算数・東京書籍… 「ほじゅうのもんだい」「おもしろ問題にチャレンジ!」のページを新設し、反復学習や活用力育成に対応。全体で3割増。

算数・学校図書… 6年生向けに、中学とのつなぎに特化した別冊を作成。本来中学で学ぶ「負の数」や「確率」なども紹介。

国語・教育出版… 3年で俳句、5年で李白などの漢詩が登場。全休で3割増。

国語・光村図書出版… 全学年で文学作品を2本、説明文を2本増やす。

理科・東京書籍… 単元の導入部分を見開きにし「活用しよう」のコーナーを新設。



《思考力、活用力養成が柱 …「言語活動」全教科で重視》


●算数的活動

 指導要領の改訂で大幅に増えた学習事項に目が行きがちだが、今回の教科書のポイントとして「考える力を伸ばすことを意識した」と強調する編集者は多い。特に算数でこうした傾向が顕著に表れており、誰かの解答例を示して考え方を読み取らせ、さらに自分で考えたことを言わせたり、書かせようとする場面が目立つ。
 ここでは、。答えにたどり着くためのテクニックの習得は目的とされていない。教育出販の編集者は「『答えを載せてしまったら面白くないのでは』と思うかもしれないが、他人の考え方を読み取るというのは力が要ることで、大事な学習になる」と話す。学校現場ではこうした取り組みを「算数的活動」と呼んでおり、指導要領でも新たに指導内容として規定されるなど、充実が求められている。
 学校図書は「算数的活動マーク」を作成。「きっちり指導していい部分と、時間をかけて子供たちに気づいてもらいたい部分を分けた」という。東京書籍(3年)は「12×4」を求める問題に、4人の解答例を図示しながら3ページ費やした。また、ノートの取り方を学ぱせるページで、書いたことに誤りがあっても教訓として残すため消しゴムで消さないよう指導している。

●PISA型学力

 新指導要領は、基礎知識を実際の生活場面などで「活用する力」の育成を重視する。そうした力をつけることが「学ぷ意義を実感させ、意欲を高める』という狙いもある。
 背景にあるのは、経済協力開発機構の学習到遅度調査(PISA)で、日本の子供の成績が近年下落したことへのショックだ。PISAの問題は、データ資料や図表を読み解いて自分の考えを的確に表現することが求められるのが特徴。全国学力テストでも、知識を問う「A問題」に比べ、活用力を問う「B問題」に弱い傾向が指摘され続けてきた。
 多くの編集者が「PISA型学力を意識した」と口をそろえ、生活場面に引きつけて考える問題や、図表を読み解く問題が多用されている。「日本の子供はそういう問題に慣れていなかっただけ』と話す編集者もいるが、別の編集者は『計算ドリルを活用ドリルに代えても本当の思考力は育たない。だからこそ『活動』の部分が大事になる」と指摘する。

●スパイラル学習

 活用の前提となる基礎的な知識を定着させるため、複数学年にわたって指導内容を一部重複させるという試みだ。単なる繰り返しではなく、深みのある内容に変えて再登場させるのがポイント。反復学習は算数以外でも大幅に増えており、家庭科でゆで卵を作る際、理科で学んだ「沸騰」を復習せるなど、教科間の連携も深められている。

●スピーチ、ディベート


 思考力や表現力の強調は、算数以外も同様だ。国語ではスピーチや討論への取り組みが重視され、ディベートに臨む際の段取りなどを細かく解説した教科書も多い。光村図書出版は各単元に「答えのない問題」を設定。例えば、大豆に関する説明文(3年下)を読んだ後で「もっと知りたくなったこと」「他に知っていること」などを発表させる。
 理科の新指導要領もPISA型学力を意識し、「観察や実験の結果を整理し考察する活動」を充実させている。このためほとんどの教科書で、結果からすぐ原理や法則を導くのではなく、「どんなことか言えるか」を十分に考えさせようとするステップが挿入された。
 活用の基礎ともなる「言語活動」は、国語に限らずすべての教科で重視され、社会の教科書でも「取材する」「話し合う」などの場面が目立った。

●発展、難度

 小学校では前回検定教科書(05年度使用)から、指導要領の範囲外でも「発展的な内容」であることを明記すれば載せられるようになった。さらに文部科学省は08年、『小中学校は全休の1割、高校は2割程度』としていた発展記載割合の上限を撤廃し、教科書のボリュームを増やす土台を整えていた。
 しかし、ふたを開てみれば、新指導要領の内容が大幅に増えたこともあり、記述全体に占める「発展」の割合は前回の2.8%から1.5%に下落。発展マークを付けて申請しても外すよう求める検定意見が281件付いた。ある編集者は「文科省が指導要領の範囲内とする基準が緩くなった気がする」と証言した。
 別の編業者は「発展は難しいという考え方はもうやめた方がいい」と指摘する。これまでの指導要領は「乾電池の数は2個まで」「角柱や円柱の展開図は取り扱わない」といった「歯止め規定」を設け、難度が上がり過ぎないようコントロールしていた。しかし、この規定が新指導要領では原則撤廃されており、検定によって「難し過ぎる問題に発展マークを付ける」という意味合いは薄れている。発展マークのない問題の方が、ある問題より難しいケースも珍しくなくなった。
 こうした流れの中で、今後も教科書に難度の高い記述が増えていく可能性は高い。
 学校図書は、6年算数で上下巻のほかに別冊を作成し、中学の学習とのつなぎに特化した内容を盛り込んで合格した。1次方程式や無理数なども発展扱いで掲載。担当編集者は「文科省に『本ごと不要』と言われるかもしれないと思っていた。今回は他の部分でも、よく検定を通してもらえたと感じる部分か多い」と振り返った。

●新規、復活 …「電気の利用が初登場」

 「電気の利用」は小学校で初登場する内容。生活場面と祈ぴつけながら、電気のエネルギーを光や熱に変換して利用していることを知り、手回し発電機やコンデンサーなどの器具も使用する。学校図書は、発光ダイオードとペットボトルを使った風力発電機の作り方なども紹介した。
 台形の面積の公式「(上底十下底)×高さ÷2」は、現行指導要領から扱わないことになり、前々回検定教科書(02年度使用)で姿を消していたが、前回検定教科書は「発展」で6社中4社が扱った。今回、新指導要領で復活したことを受け全6社が考え方と公式を記載した。
 素数や食物連鎖など「発展」で記載するか、全く扱わないかの判断が分かれていた事項も、指導要領の範囲内となったことで全教科書に登場している。



《単位表記を国際基準に》

 今回の検定から、小学校教科書では初めて、単位表記の斜休(イタリック体)を認めずすべて立体に直すよう求める意見が付いた。容積の「リットル」は 「l」から「L」に変更される。文科省は「現場での指導も立体が一般的になるだろう。答案で立体を書かなければ誤りということではない」としている。
 世界的に採用されている国際単位系(SI)に準拠した措置。小文字の「l」は数字の1と混同しやすいため「L」を推奨するといい、「デシリットル」などは小文字と大文字の混在表記が主流となった。
 SIは立体であれば筆記体でも構わないため、(立体の)「l」を使用した教科書もある。
 06年度高校教科書検定でも、物理などで同様の意見が付いたが、多くの教科書会社は「違和感」などを理由に今回も従来通りの表記で申請。単位表記に関する検定意見は算数の382件を筆頭に計465件に上った。


《新聞に対する記述充実 児童による編集会議も》


 授業で扱うべき言語活動の例として、新学習指導要領が「新聞」を新たに位置付けたことを踏まえ、各教科書で新聞に関する記述の充実が目立った。教育出版の国語(5年上)は、は、毎日新開の編集作業の様子を写真で紹介しなから、新聞ができるまでの流れや、本文、リード(前文)、見出しなどの要素について学ぶ構成。児童が編集会議を開き、記事を書いて新聞を完成させるところまで導いている。
 新聞の投書形式の文章を読み比べる学習(東京書籍、国語6年上)や、同じ「緊急地震速報」を報じた3社の紙面を見て取り上げ方の違いを考えさせるページ(教育出版、社会5年下)などもあった。


《イラストなどに淡色を使用 児童を落ち着かせる配慮も》

 児童が集中できる環境作りを目指し、イラストなどに淡い色調を採用する例も出てきた。特別支援が必要な児童も意識した対応だ。東京書籍の算数担当者は「子供が好むのは原色だが、あえて色合いを抑えた」とし、認識しやすいよう、ページを示す数値を白抜きにする工夫もした。
 同社の生活科教科書は、イラストの見せたい要素だけ濃く描いて背景を薄くしたほか、文字もなるべく色の上に乗せないようにした。担当者は「特に低学年で授業が成立しないなどの問題が多く起きており、落ち着いて取り組める配慮が必要だ」と語った。



【識者の意見】

《学びの幅広がる内容に》
 元文部科学省大臣官房審議官でゆとり教育の「旗振り役」と言われた寺脇研・京都造形芸術大教授の話

 (内容が約3割減った学習指導要領が施行された)02年度の教科書も実はこういうものにしたかった。メディアが『教える量が少ないのがゆとり』と言ったからおかしくなったが、本来いろんな学び方ができるゆとりを作っていこうという話。内容の豊かな教科書になればなるほど、学びの幅が広がる。
 勉強が苦手な子のためにかみ砕いた記述をして、得意な子のために発展的内容も入れれば、厚くなるのは当然。当時の文科省では「教師は教科書を全部教えるものと思い込んでいるから、厚くしたらパニックになる」との意見が多数派だったが、そうした強迫観念は今だいぶ薄まっている。しかも、逆立したってこんな教科書全部教えられない。どの学校でも習熟度別授業をやらざるを得なくなるだろう。
 伝統文化は大切だが、理論ではなく実践で学ぶべきだ。せっかく週5日制や総合学習の時間を使って文化に肌で触れるようにしてきたのに、そうした時間を取り上げて、国語の時間に教科書で能の理屈を教えるというのはちょっと変だ。

《一定の学力回復に期待》
 「ゆとり教育が学力低下の原因だ」と批判してきた澤田利夫・東京理科大数学教育研究所教授の話

 教科書が内容量を確保し、授業時間も増えることで、一定の学力回復が期待できる。算数的活動をテーマとするなど「考え方」を重視しており、「詰め込み教育に戻る」という批判は当たらない。
 教科書が厚みを増したことで現場の教師から不安や不満の声が出るだろうが、全ページを指導する必要はなく、むしろ大事な場所に時間をかけるなど抑揚をつけるべきだ。この教科書をどう活用するのか、今まで以上に教師の力量が問われるだろう。
 つまり、子供よりも教師の方が勉強する必要があるのではないか。指導以外の業務を簡素化することで教師の自由時間を確保し、研究会や研修の機会を増やした方がいい。

《純粋な好奇心生かして》
 ノーベル物理学賞受賞者 益川敏英氏

 理科の教科書は実験や観察が充実したが、必ずしもいいこととは言い切れない。あらゆることを体験させるというのはナンセンスだ。理科教育とは、先人が発見した知識や法則を、発見の過程を省略しながら要領よく取り入れていくこと。1~2例の実験で先人の発見を疑似体験させたら、関連分野は類推させるべきだ。
 例えば、アルコール15ccと水10ccを混ぜても25ccにはならない。アルコールの分子が水の分子より大きいため、すき間に水の分子が入り込んで約24ccとなる。それだけで分子というものを実感できるから、後は教師か要領よく理論を指導したらいい。
 観察も、教師が「今の段階で何を与えるべきか」を分析し、十分に準備して臨まなければダメ。ただ原っぱに行って「アリがいました」「面白かった」というくらいなら、最初から『こういう法則が成り立ちます』と教えた方がいい。
 子供たちには、科学への信頼と親近感を持ってほしい。「科学者が言っていることは本当だな」と感じさせることが、理科教育のエッセンス。わけのわからないことを、やみくもに覚えさせては不信感を抱かせる。
 子供はクイズや謎が好きなように、本来は理科が好きだ。好きなことだったら分量が多くてもついてきてくれる。教科書や教師がその純粋な心を汚染しないことを望む。
 そのためにも、記憶力を問うだけの試験を改める必要がある。空欄を埋める形式や択一式の問題は考える力を育てない。問題は1行だけで、解答は多くの白紙を埋めるような形式にし、チャレンジ精神を養うべきだ。
 課外授業をもっと充実させてはどうか。政府が予算を組んで、中学や高校を定年退職した元指導者を放課後の小学校に呼ぶ。子供は自分の好きなことに特化して、そこで高度なことまで学ぶ。授業では「基礎体力」を育て、それ以外の場で子供の興味を刺激するような教育の仕方はあるはずだ。

《ドキドキできる文章を》
 作家 高村薫氏

 国語の教科書に出てくる現代文が易しすぎて、新たに導入した古典や漢詩との落差が大きい。文章そのものに「大人向け」「子供向け」という区別はなく、子供にもさまざまな作品を読む能力があるはすなのだが、「子供向け」の素材を選ぶべきだという幻想に編集者がとらわれている気かする。
 私は小学生から国語が苦手だった。教科書に出てきた芥川龍之介や太宰治など近代小説の日本語が、当時の私の生活環境とかけ離れていてなじめなかった。多くのメディアを通じ、大人が目にするものと同じ文章に触れている今の子供たちはなおさら、教科書の現代文に違和感を覚えてしまうだろう。
 子供か興味をもって学ぶ一番のきっかけは、ドキドキする感情だ。国語で言うと、教科書の作品から受ける「不思議さ」や「美しさ」かその芽生えとなる。だから、意味が十分に理解できなくても古典や漢詩に触れることは賛成だし、同じ発想で現代文も選んでほしかった。
 ドキドキする対象はストーリーに限らず、文章の格好良さなども合まれるのだから、三島由紀夫や梶井基次郎を採用してはどうだろうか。漢字にルビさえ振れば、思い切って学術論文でも構わないと居う。ちなみに私は、理解できなかったが小林秀雄の文章にドキドキした。
 大人になって振り返ると、国語の大切さを身に染みて感じる。日本語の構造、文法や論理をきちんと学べば、「表現して誰かに伝える」という言葉の基本機能を習得できるからだ。それなのに文章やストーリーに違和感を覚え、入り口で立ち止まってしまったら、こうした本来の目的に向かうことができなくなる恐れかある。
 情報がはんらんする現代に生きる子供にとって、必要なのは真理を見極める力だ。教科書に書いてあることでさえ、最終的には自分の頭や経験で判断する力が求められている。そのためにも、基礎となる国語力をしっかりと身につけてほしい。




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